補聴器は脳のアンチエイジングツール? 母の難聴と認知症の関係を調べてみた

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難聴対策のために買った集音器

実は、この記事を執筆するきっかけは、私自身の母のことでした。高齢になり、少しずつ耳が遠くなっていく母。最初は「年だから仕方ない」と思っていましたが、最近になって、以前より物覚えが悪くなったように感じ、少し心配になりました。

「もしかして、聞こえにくいことが関係しているのだろうか?」そう疑問に思い、専門的な情報を調べていくうちに、驚くべき事実を知りました。

近年、世界的な医学誌『Lancet』が発表したレポートで、認知症の予防可能なリスク因子のうち、最も影響力が大きいのが「難聴」であることが指摘されています。世界保健機関(WHO)も、認知機能低下のリスク低減のためのガイドラインで、難聴への介入として補聴器の使用を推奨しています。

難聴を放置することが、なぜ脳の健康を損なうリスクを高めるのでしょうか。そして、聞こえをサポートすることが、なぜ脳のアンチエイジングにつながるのでしょうか。この疑問を解明するために、私自身の個人的な体験から得た関心と、権威性の高い研究に基づいた専門的な知見を交えて、詳しく解説していきます。

目次

難聴が脳の老化を加速させる2つの仮説

難聴と認知機能の関連性については、主に以下の2つの仮説が有力視されています。

認知負荷仮説(Cognitive Load Hypothesis)

この仮説は、難聴によって音を聴き取るために脳が過剰なエネルギーを消費し、本来、記憶や思考、判断力といった高次な認知機能に使うべきリソースが奪われるというものです。

例えば、騒がしい場所で会話を理解しようとする際、健聴者よりもはるかに多くの注意力を要します。この状態が慢性的に続くと、脳は常に「過負荷」の状態に置かれ、結果的に神経細胞が変性したり、脳の萎縮が加速したりする可能性が指摘されています。

脳の構造変化と社会的孤立仮説(Brain Atrophy & Social Isolation Hypothesis)

音の情報が耳から脳に十分伝わらなくなると、聴覚を司る脳の領域が刺激不足に陥ります。

国立長寿医療研究センターなどの研究では、難聴のある高齢者では、聴覚野を含む脳の特定の領域の容積が小さい傾向があることが報告されています。つまり、使われなくなった脳の領域は、萎縮してしまう可能性があるのです。

また、聞こえにくいことで、人と会うことや会話をすること自体が億劫になり、社会的な交流が減ってしまうことも深刻な問題です。社会的な孤立は、脳への多様な刺激を減らし、認知機能の低下を早める主要なリスク因子の一つとされています。

参考:難聴と認知症の関係(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

補聴器による難聴介入の「脳」への効果

難聴が脳に与える負の連鎖を断ち切るために、補聴器は有効な手段となり得ます。補聴器は単に音を大きくするだけでなく、個々の聴力に合わせて特定の音を強調し、会話の聞き取りを助けることで、脳への負担を軽減します。

国立長寿医療研究センターの佐治直樹副センター長らは、難聴と認知機能低下に強い関連性があることを見出しており、補聴器を装用することで認知機能がどう変化するかを検証する研究(エスカルゴ研究)も進行中です。

海外の研究では、補聴器の使用が記憶スコアの低下を抑制したり、脳の活性を保ったりする効果が報告されています。また、補聴器を装着することで、歩行機能が改善する可能性を示唆する研究も発表されており、これは脳の様々な機能が連動していることを示しています。

早期の難聴対策がなぜ重要か

難聴は徐々に進行するため、自覚がないまま放置されることが少なくありません。しかし、脳への影響を考えると、早期の対策が非常に重要です。

WHOは、認知症予防として難聴の管理を推奨しています。耳鼻咽喉科を受診し、適切な診断を受けることが最初のステップです。

聴力検査で難聴が判明した場合、補聴器を装用することで、脳への音の入力を正常化し、認知負荷を軽減し、社会的交流を維持することができます。 慶應義塾大学の研究では、どの程度の聴力レベルから補聴器を始めるべきかについても検討が進められており、より科学的な根拠に基づいた対策が可能になりつつあります。

参考:耳が聞こえにくいと認知症になりやすい?(国立長寿医療研究センター)

集音器の有効活用高額な補聴器だけが選択肢ではない

難聴対策として最も推奨されるのは、個々の聴力に合わせた調整が可能な医療機器である補聴器です。しかし、高額であることや、医療機関への受診がハードルに感じられる方も少なくありません。そうした方々にとって、安価な集音器もまた、脳の健康を守るための有効な第一歩となり得ます。

集音器と補聴器の違いを理解する

  • 補聴器(医療機器)
    耳鼻咽喉科医や専門家が、個々の聴力データ(どの周波数の音が、どの程度聞き取りにくいか)に基づいて調整します。特定の音を強調し、不必要な雑音を抑えるなど、細やかな調整が可能です。
  • 集音器(電気機器)
    音を単純にマイクで拾って大きくする機器です。細かな調整機能はなく、会話だけでなく周囲の雑音も増幅される傾向があります。

集音器の有効な活用方法

集音器は、補聴器のように細かな調整はできませんが、以下のような状況で脳への刺激を確保し、認知負荷を軽減する上で役立ちます。

  1. 軽度の難聴の場合
    まだ軽度の難聴で、会話の聞き取りに時々不自由を感じる程度であれば、集音器でも十分に音の入力不足を補うことができます。
  2. 補聴器購入前の試用・導入として
    補聴器の装用に抵抗がある場合、まずは安価な集音器を試してみることで、音のある生活に慣れるためのステップとすることができます。
  3. 特定のシーンでの活用
    テレビの音を聞く、家族との会話を一時的にクリアにするなど、特定の限定的なシーンで活用することで、脳への刺激を確保できます。

参考:集音器ガイド

集音器使用時の注意点

ただし、集音器は医療機器ではないため、使用にあたっては以下の点に注意が必要です。

  • 過剰な音量に注意: 音を不必要に大きくしすぎると、かえって耳に負担をかける可能性があります。
  • 根本的な解決ではない: 聴力の低下は病気が原因である可能性もあります。集音器で聞こえを一時的に補うだけでなく、難聴の根本原因を特定するため、一度は専門医の診断を受けることが重要です。

大切なのは「聞こえの放置」をしないこと

高額な補聴器に抵抗がある場合でも、「聞こえにくい」という状態を放置しないことが、脳の健康を守る上で最も重要です。集音器は、そのための有効なツールの一つとして活用できる可能性があります。ご自身の聞こえの状態を理解し、無理のない範囲で対策を始めることが、未来の自分への投資となります。

まとめ – 聞こえを守ることは、未来の自分を守ること

難聴対策は、単にコミュニケーションを円滑にするだけでなく、脳の健康寿命を延ばし、より質の高い生活を長く続けるための重要な「脳のアンチエイジング」であると言えるでしょう。

「まだ大丈夫」と安易に考えず、少しでも聞こえに不安を感じたら、耳鼻咽喉科の専門医に相談することを強くお勧めします。

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